大井で排尿
最終レースの後、帰りがけに便所に寄り、用を足す。他に人はいない。
最中に、警備員のおやっさんが入ってきた。「従業員も利用させて頂くことがあります」という白々しい告知も、この競馬場には必要なく、当然のごとく彼らも利用する。
「最終は荒れましたか?」
排尿中の私におやっさんは尋ねる。
「ええ。まぁ、ヒモ荒れですね。」
排尿準備を整えた彼に過不足なく答える私。
「そうですか。でもまぁ今日はずっとかたかったですね。」と放尿先から視線を逸らすことなく、続けて返すおやっさん。
「そうですか?1番人気はほとんどアタマにこなかったですけどね。」
彼と私のあいだには、「荒れる、荒れない」について認識の相違があるのだろう。
噛み合わない会話が、さらにこの空間の居心地にむず痒さを与える。
レースが気になりつつも勤労していたをおやっさんと、酩酊ほろ酔いの私では、排尿量に差があったようで、あとから用を足していた彼が先にチャックを上げて便器から離れ、私の背後を通り過ぎた。
まだ何やらぶつぶつとつぶやいているが、排尿の終わり際が気になる私はそれほど耳を傾けるつもりはない。
手洗いに向かうかと思われたおやっさんはそのまま、「じゃあ、ありがとうございましたー。」と言い、私にも手洗い場にも見向きもせず、出ていった。