ここは吉兆、どこかに吉兆
町中華でチャーハンを食いたくなり、恵比寿にある中華料理屋、吉兆へ。
入店すると、先客が何人かいた。
おもむろにL字のカウンターの隅の一席に陣取ろうとすると、足元は水浸し。
それもそのはず、その横の給水管から水漏れしているのだ。
そのうえ、店員さんが栓の開け閉めをすると、その振動で隣の席に置いた荷物が揺れる。
まるで給水管が動悸を起こしているようだ。
店の大将は注文が入った時以外、椅子に腰掛けているか立ち尽くしているか。
そのどちらかに関わらず、常に一点を見つめて微動だにしない。
片割れの店員と会話を交わすこともなく、押し黙っている。
唯一、発する言葉は、注文の掛け声に対する「おい」のみだ。
それ以外はただ、動悸を起こした水道栓の音だけが響く。
やがて出てきた今日のお目当て、チャーハンを一口。
水道栓の音がまた響いた。